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2012.09.28 (Fri)

〈観察〉通勤電車でスタバ地獄

朝の通勤電車、JR横須賀線。
私の斜め向かいの4人掛けボックスシートの通路側に、20代のちょっとおすましのOLさんが座っています。一足早くすでに秋本番の装いです。白いシャツの上に水色のニットのカーディガンを上品に羽織っております。ボブカットの黒髪です。

おすまし感をさらに強調するためか、この朝の混雑した通勤電車に「スターバックス」の紙コップ(プラスチック蓋付き)を持ち込んでいます。
車内の混雑を他所に悠然と座り、時折り、ちびりちびりとそのプラスチック蓋の穴の開いたところに口を当てて飲んでいます。「私だけはちがうのよ」と言いたげです。白いカップに緑のマークが誇らしげです。都会のおすましさんの勲章です。

starbucksecofriendlygreenplanet_Full.jpg

電車が横浜駅に着き、大勢の乗客が降ります。偶然、ボックス席の彼女以外の3人も皆降りてしまい、次の乗客たちが座ってくるまでの間、一瞬、彼女一人になります。
彼女は進行方向に向いた窓際の位置に移動します。バッグと、そして大切な「スターバックス」の紙コップを持って、おすましな顔つきで腰を上げます。そのままおすましな顔つきで腰を下ろし、片方の手でバッグを膝の上に置き、もう一方の手で窓際の桟(さん)のところにその大切な「スターバックス」の紙コップを置きます。

「スターバックス」の紙コップ。

私が一瞬目を離した、その瞬間です。
ばしゃっ、という湿った音が響きます。

そちらに目をやると、床の上に薄茶色の水たまりが。その中に横たわる「スターバックス」の紙コップ(緑のマークが依然誇らしげに上を向いたまま)。そして距離を置いてプラスチック蓋がコロコロと転がり、赤い口紅が付いた方を下にしてパタッと倒れます。

そばに立っていた乗客が慌てて避けます。横浜駅から乗り込んできた乗客達も違う方向に逃げます。

1センチ程の厚さをもった薄茶色の水たまりが徐々にその面積を広げつつあります。その色から「なんとかラテ」であることが推察されます。ほんのり甘い、そしてバニラの香りが車内に漂います。

電車が発車します。がくん、と車体が揺れます。水たまりは物理学でいう「慣性の法則」に従い、その場に留まろうとして後方にゆったりと何本かの線を引いて流れます。そちらの乗客が慌てて立ち位置を変えます。

列車は進み、カーブに差し掛かります。右カーブ。車体が右に傾きます。先ほど後方に何本かに分かれた「スターバックスのなんとかラテ」は、その各支流からさらに右側に何本かの触手を伸ばします。
そちら側の乗客が慌てて位置を移動します。

反対側のカーブに差し掛かります。左カーブ。先程と逆の触手を伸ばします。
そちら側の乗客が慌てます。

電車は鉄橋を渡ります。ガタンガタンと車体が揺れます。各触手がぶるぶると震え、その場でそれぞれの領地を広げます。

こうなると、車内の乗客はもはや「ツイスターゲーム」状態。
空いている足の置き場を探し合い、求め合い、譲り合う・・・見知らぬ乗客達の間に不思議な連帯感のようなものが生まれます。

さすがに何人かの乗客が避けられず液体を踏んでしまい、それぞれが、よせばいいのに床のまだ侵されていない部分に靴の裏をこすりつけて汚れを落とそうとします。そこが靴裏の模様の形に汚れてしまい、その辺りはあっと言う間にどうしようもない惨状を呈します。

次の駅が近づいてきました。電車は減速します。重力が前方にかかります。縦に横にと広がった支流がさらに前方に細い触手を伸ばします。その侵蝕に容赦はありません。心を持たないゲル状の原始動物が、触手を伸ばして周りのものを飲み込みながら、冷徹に領土拡大を行っている様を連想させます。

表面積が大きくなったせいで、「スターバックスのなんとかラテ」の甘い匂いがさらに薫り立ち、車内は「スタバのラテ臭」でむせ返りそうです。

惨劇の元になったカーディガン女のボックス席に目をやると、4人掛けに彼女以外の乗客はおらず、平然と一人で座っております。ますますおすましな顔つきで窓の外の一点を見つめ、「私じゃないのよ」オーラを発散せんと無視を決め込んでおります。

次の駅が近づき、駅名のアナウンスが鳴ったところで、彼女は席を立ち、不本意なツイスターゲームに興じる乗客達の間を器用にするすると抜け、隣の車両に逃げて行きました。

あ、今、誰かその「スターバックス」の紙コップを踏みました。


(完)



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テーマ : 日々のつれづれ ジャンル : 日記

00:33  |  通勤電車で観察  |  トラックバック(0)  |  コメント(0)  |  編集  |  Top↑
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